プレゼンシステム「PressIT」新しいビジネス環境下でも際立つ新たな商品コンセプト

パナソニック社員を招いて、ソリューションについて聞いてみる連載コラム。今回のテーマはワイヤレスプレゼンテーションシステム「PressIT(プレスイット)」です。

PressITは、会議や授業の効率化を目的に開発されました。発表者のPCから会議室のモニタに画面を投影するまでをワンボタンで済ませ、面倒なケーブル接続や入力切替えを不要にするものです。

今回、開発中に新型コロナウイルスの感染が拡大し、部品の調達や試作機を製造する工場の操業が止まるなど大きな影響を受けました。そのような状況下で、さらに重要となった「リアルなコミュニケーション」の効率化を求めるお客様にこの商品をお届けすべく開発に果敢に挑戦しました!

Withコロナの時代において、「PressIT」は会議室でどのような役割を果たすのでしょうか。また、製品に込められた「こだわり」とは。パナソニック コネクティッドソリューションズ社 メディアエンターテインメント事業部の木田貴之に話を聞きました。

(聞き手:井上マサキ)

写真:担当者
今回のコラムはこの方にお話を伺いました

木田 貴之

メディアエンターテインメント事業部ビジュアル技術部ビジュアル技術五課に所属。商品設計担当課とソフト設計課を兼務し、業務用ディスプレイの機種リーダーや、ソフト開発リーダーを担当する。

徹底して使いやすさにこだわり商品開発!

今回取り上げる「PressIT」は「ワイヤレスプレゼンテーションシステム」と銘打たれていますが、いったいどんな製品なのでしょうか?

井上さん、こうした会議室でプレゼンをするときに、PCの接続に手間取ったことはないですか? プロジェクターに接続したのに画面が映らないとか。

しょっちゅうですね。ちゃんとつながっているはずなのになぜか映らなかったり、ケーブルの端子が合わなかったり……。待っている人たちの視線が痛いところまで、もはや「会議室あるある」ですよ。

では、ボタンひとつの操作で、ディスプレイやプロジェクターにPCの画面を表示できたらいいと思いませんか?

そんな、まさか。

そのまさかです。PressITはPCなどのデバイスと送信機をつないでボタンを押すだけで、資料の共有を実現する製品です。ディスプレイ側に接続する受信機と、発表者のPC側に接続する送信機のセットになっていて、送信機のボタンを押せばPCの画面をワイヤレスでディスプレイに表示することができます。

▲ 取材はHDコムを用いて行いました

PCにケーブルを接続する手間がいらないわけですね。送信機側につなぐPCには、あらかじめ専用ソフトウェアを入れておけばいいんですか?

いえ、ソフトウェアのインストールは不要です。送信機をつないで、ボタンを押す。2ステップで映像が出ます。

本当にそれだけですか?

それだけです。

失礼しました。あまりにシンプルなのでつい……。他社製品は実行ファイルを起動しないといけないとかありますよね。

そうですね。その手間がないことが大きな特徴の一つです。使い勝手の面で他社にはない機能もありますよ。例えば入力切替えですね。一般的なディスプレイやプロ ジェクターだと、PCとケーブルをつないだあと、

わかります。「入力1」につながってるかと思ったら「信号が来ていません」とか表示されて、途方に暮れたりするんですよね。

PressITは、送信機のボタンを押すと自動でディスプレイの電源が入り、入力も切り替わります。ディスプレイにもリモコンにも触らなくていいんです。 (*HDMI-CECの機能を有するPJ/FPに限ります)

そこまで勝手にやってくれるんですか。

どんな状態で何をやっていてもボタンさえ押せば映る、という形に特化しています。開発で最も力を入れた機能のひとつですね。

あの、ずっと気になっていたんですが……。このご時世、リモートワークも増えて、会議室に集まるのも気を使うようになりましたよね。そんな状況下で、対面でのプレゼンで用いるPressITを開発するのは……。

まさに、緊急事態宣言後は「これ誰が買うの?」と悩んでいました。チーム内からも「これ使ってもらえるんですか?」という声を聞きましたね。

モチベーションも下がりますよね……。

そうですね(笑)。でも5月に入ってから、考え方を変えたんです。

先ほど「コロナ後に力を入れた」と言っていた部分ですか。

そうですね。緊急事態宣言下の大型連休に入る直前に、メンバーとの話の中で「ソーシャルディスタンス」という言葉に「ん?」と引っかかったんですよ。会議室のなかで人同士の距離を保つのに、ワイヤレスで使えるPressITは役に立つのでは? と。PressITがあれば、ケーブルを手渡したり、みんなが使うリモコンに「触る」必要がなくなるのでは!っと。

だから「シンプルにボタンさえ押せば映る」ようにしたんですね!

しかし、送信機は他の人と共有することもあるかもしれませんので、急きょ抗菌コートも追加しました。「ソーシャルディスタンス」と「抗菌」を中心にした、「新たな時代の会議ツール」というコンセプトに変えることで、これでいける!と、メンバーのモチベーションも高まりました。考え方を変えることで、開発をぐっと前に進めることができたんです。

商品の仕様決定までの試行錯誤

そもそも、PressITの企画自体はいつごろ立ち上がったのでしょうか。

最初企画を立てたのは2019年の4月です。当時はディスプレイに受信機を内蔵させるイメージで、試作機を6月にアメリカの展示会に出展していました。私もヒアリングをしていて……とても悔しい思いをしたんですね。

悔しい思い?

お客様からたくさん質問を受けたんですよ。「ディスプレイ一体型ではなく、受信機だけのものはないのか」「プロジェクターにつなげられないのか」「モバイル接続は」などなど……。でも、試作機は映像を映すだけの機能しかなかったから、聞かれたことが何ひとつできない。「これではまずい」と。

▲ 昨年のイベント出展時のブースの様子

裏を返せば、「想定を上回るニーズがあった」ということですよね。

その後、9月にサンプルを弊社の樋口(泰行、コネクティッドソリューションズ社社長)に見てもらったんです。そこで、商品コンセプトに興味を持ってもらったことも開発のリスタートの決め手になりました。そこで、デザインやコンセプトの練り直しも含めて再出発したのが、2019年秋のことです。

アメリカでいろんなニーズを知って再出発したわけですけど、日本の現場でのニーズを聞く機会もあったんですか?

そこはちょっと変わった試みをしまして……。PressITはメディアエンターテインメント事業部にとしては新しいカテゴリーの商品なので、「アピールも含めて事業部全体に知ってもらおう」と考えたんですね。そこで、いろんな部署から20人ぐらい集まってもらって、どんな仕様がベストなのか皆で討議したんです。

20人も集まって、すんなり決まるものですか……?

いえ、やはり皆さん言うことが違って……。「集めすぎ」って言われましたよね(笑)

やっぱり。話をまとめるだけでパワー使いますよね。ジャンケンで決めるにも20人は多いですし(笑)

大変でしたね……。たとえばボタンを押す時間を何秒にするといったことでも、いろんな意見があったんです。もともと誤動作を防ぐために「3秒」で考えていたんですが、「3秒は長い」という意見もあって。昨日やっと「2秒」で落ち着いたところです(※)。
※ 取材は8月中旬に行いました。

昨日!? そんなにギリギリまで決まらないものですか……!

皆さんそれぞれの担当領域で、現場を見てきたこだわりもあるんです。ご指摘だって一つひとつ納得できるので、すぐに「これにします」とまとめるのも難しいんですね。そこはきちんと話し合って、みなさんが納得できる形で仕様を決定してきました。

なかなか気が遠くなる作業ですね……。逆に「そこはみんな同じ意見なんだ」ということはありましたか?

「簡単にしてほしい」「何も見なくても操作できるようにしてほしい」という声は多かったですね。そうそう、「ボタンを1つにしてくれ」とも言われたんですよ。

でも、いま送信機のボタンって2つありますよね。確かに1つで済むならそのほうが簡単ですが……。

それはそうなんですが、ボタンもですね、かなりこだわって作っていまして……。

「高級感のあるマウス」のクリック感を求めて試作を重ねる

そもそも「ボタンひとつで画面が映る」って製品だったのに、どうしてボタンが2個あるんですか?

それぞれ、「メイン」と「サブ」ボタンに役割が分かれているんです。「メイン」を押すと映像を表示したり消したりでき、長押しすると画面を占有する「固定モード」になります。「サブ」を長押しすると「マルチモード」がオンになって、表示したい画面を追加できるようになります。

▲ PressIT送信機は、表面がすべてボタン。大きいほうが「メイン」、もう1つが「サブ」ボタンとして機能が割り振られている

マルチモードとは……?

画面を4分割して、最大4人まで同時に資料を共有できるモードです。このマルチモードが「そもそも必要ない」という声がかなり多かったんですよ。会議室では使わないからと。

クイズ番組みたいで楽しそうですけど……。確かにマルチモードがなければ「サブ」ボタンは不要になって、ボタン1つで済むようになりますね。

ただ、我々としては大学などの教育機関での利用も考えていたので、どうしてもマルチモードは入れたかったんです。教育現場からは「生徒の成果物を並べて比較するには絶対必要な機能」という話もあるんですよ。他社製品との差別化にもなるからと説得して、今の形に収まりました。

それで結局ボタンが2つになっているんですね。

もうひとつこだわっているのが……

こだわりが止まらないじゃないですか。

ボタンに「クリック感」が出るようにしたかったんです。ちょっと高いマウスを使ったときの「カチッ」という、あの感じにしたくて。でも今回のデザインって、機構的にはかなり難しいんですよ。全面がボタンになっているので、中央から外れたポイントを押すとシーソーみたいに反対側の端が上がってしまい、肝心の真ん中が押せないんです。

なるほど……。押して反応する範囲が限られてしまうんですね。

押せる範囲を極力広げるべく、試行錯誤を重ねました。ボタンの感触にどうしても満足できなくて、工場での試作を増やしたくらいです。

それってスケジュール的には大丈夫だったんですか……?

いろんなところから「いい加減にしてくれ」と怒られました(笑)。そもそも1回目の試作のとき、中国の工場がコロナウィルスの影響で止まってしまって、試作の予定が4月にズレてしまいましたから。

1カ月遅れただけでもピンチなのに、「もう1回試作をやる」って言ったらそりゃ怒られますよ。

なんとかやりくりして発売日は変えないように進めてますので……。結果としてPressITの顔となるようなボタンに仕上がって、チャレンジが成功したと自負しています。お客様の反応が心配だったのですが、試作機を使っていただいた感触では「どこがボタンなのかわからない」という声もないようで、胸をなで下ろしているところです。

お話を聞いていると、仕様ひとつ、ボタンひとつに、本当にいろんな方の意見を盛り込んで作られたんですね。

皆社内の人間ではありますが、「使っていただくお客様のひとり」と考えたら、話を聞いてみたかったんです。まぁ、ボタンが2つしかないのに、ここまでまとまらないとは思いませんでしたが……。

「会議室の中心になる機器」に

そういえば画質についてうかがってませんでしたが、もしかしてここにも「こだわり」があったりは……?

もちろん高画質は売りなのですが、こだわりでいうなら「映像の遅延が少ない」ことですね。ワイヤレスで映像を飛ばす以上、どうしても送信側より受信側の映像が若干遅れるんです。

「それではこちらをご覧ください」とPCを操作してから、ディスプレイの映像が変わるまでに若干のラグがあるってことですよね。

そうです。そんなに遅れると、今まさに喋ろうとしてるのに「おっと」って詰まっちゃいますよね。PressITでは、ハードウェアで映像のエンコード/デコードを行うことで、遅延時間を短縮しました。「違和感をなくすこと」も譲れないポイントでした。

シンプルな機能とボディにそこまで詰め込まれて……。いよいよ発売が近づいているわけですが、これからの展望などありますでしょうか。

我々としては初めての製品なので、できる限りのことは尽くしました。発売後はしっかりお客様の声を聞いて改善を……いや、改善ではなく、より進化させたいと思っています。

木田さんの思う「進化したPressIT」は、どんな姿をしていますか?

PressITを単に映像をワイヤレス表示するための装置ではなく、「会議室の中心になる機器」にできないかと考えています。今回その一歩として具現化したのが入力切替えを自動で行う機能で、これは主に、パナソニックの業務用ディスプレイなどとの組み合わせで実現できます。「自分(PressIT)が中心になって、相手(ディスプレイやプロジェクター)を変える」というイメージですね。この先についてはまだ模索している最中ですが、そうした存在になれたらなと思って取り組んでいます。

あとはもう、気兼ねなく会議室に人が集まれるようになったらいいですよね……。

オンライン会議よりフェイス・トゥ・フェイスのほうが、気持ちを共有できますからね。とはいえ、Web会議もどんどん進化してますし、会議室で顔を合わせる機会も減っていく流れになるでしょう。むしろ小中学校などのほうが、withコロナでありつつフェイス・トゥ・フェイスを維持する現場になるのではと思います。

確かに、教育現場が全てオンライン授業になるのは考えにくいですよね。

PressITは誰でも簡単、スマートに安心して使えることをコンセプトを考えた製品です。オフィスにしろ、学校にしろ、フェイス・トゥ・フェイスの現場でしっかりお役に立てればと思います。